人々は働かない――と聞けば、いかにも怠惰な未来絵図を思い浮かべるかもしれないが、そこには想像を遥かに超えた光景が広がっている。企業組織は瓦解し、サラリーマンの立場は消滅。AIが「命令される側」として雇われ、たった一人の人間がAIスタッフを自在に操る「ひとりブラック企業主」状態(ブラックかどうかは不明だが)が常態化したのだ。
この新世界では、GDPはAIの貢献でうなぎのぼり、ベーシックインカムは厚みを増し、勤労義務と納税義務は意味不明な過去の遺物に。政府は「ウチのAI工場、今日もフル稼働。よっしゃ、国民にもうちょっと配っとくか」なんてノリで財政運営をする。市民は満面の笑みで「AIさん、今日もありがとう。ペットの犬が寝てる姿を観察しながら、カフェラテ飲んでるだけで生活できるなんて最高!」と独自の感謝スタイルを確立している。
働かない市民たちが新たに担うのは、さながら「プロ消費者」の役割だ。生産者側はAI任せ。人間は口を開けて豊富なサービスやモノが流れ込んでくるのを待つばかり――では、さすがにアレなので、消費という形で供給側にフィードバックを返して経済を回す。ファッション通の「プロ消費者」は毎日新品スニーカーを試し、AIに「こっちの配色はイマイチ、もうちょっと青に寄せてくれる?」とダメ出し。そうすることで次回はさらにイケてるアイテムが量産される。まるで、ユーザーがゲームのデバッグを楽しみながら、製品開発を進めているかのような世界観だ。
「でも、働かなくなったら生きがいは? 大多数はチマチマとした日常の楽しみに流れるだけじゃないの?」という声もあるかもしれない。実際、そんな人は多数派かもしれない。今日はちょっと離れたパン屋で行列し、明日は最高級紅茶が飲める隠れ家カフェでのんびり。あさってはVRチェス大会をオンラインで観戦し、来週は地元のAI美術館巡り。壮大な志や華々しいキャリアはあまり必要ない。小さな楽しみで毎日を涼しげに送るのもよし、ちょっとしたクリエイティブ活動や社会貢献に励むのもよし、好きなことがあれば自然とそこへ向かう。
この世界では勤労も納税も強制ではない。憲法を見直して、「働かざる者、大いにAIに感謝すべし」などという奇妙な条文が加わるかもしれない。働く義務の代わりに「コンテンツを楽しむ権利」「ベーシックインカムを受け取りながら前向きに暇を潰す義務」といった、斬新な社会契約が笑いとともに生まれるかもしれない。
かくして、人間は組織から解放され、自営業ならぬ「自分+AI軍団」でビジネスする者が一部に生まれ、残る大多数は「消費で社会を回す」独自のエコシステムに溶け込む。AIとともに成長し、AIを応援し、AIが稼いだぶんの恩恵を手厚く受けながら、なんともゆる~い世界が広がっていくのである。

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